千葉地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決 1998年6月25日
千葉県船橋市前原西二丁目二一番一三号
原告
長野土地建物株式会社
右代表者取締役
長野貞春
右訴訟代理人弁護士
後藤裕造
千葉県船橋市東船橋五丁目七番七号
被告
船橋税務署長 飯田博
右指定代理人
清野正彦
同
堀久司
同
宮崎芳久
同
細谷秀和
同
松本正春
同
田村修
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が原告に対し、平成七年六月三〇日付けでなした平成四年五月期分の法人税の更正処分のうち金五七〇二万六〇七五円を超える部分、及び右金額を超える金額に対する同期分の過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
二 被告が原告に対し、平成七年六月三〇日付けでなした平成五年五月期分の法人税の更正処分及び同期分の過少申告加算税の賦課決定処分(但し、平成七年一一月二九日付け異議決定で一部取り消された後のもの)を取り消す。
第二事案の概要
本件は、主に土地建物の仲介を業とする原告が、平成三年六月一日から同四年五月三一日までの事業年度(以下「平成四年五月期分」という。)及び同年六月一日から同五年五月三一日までの事業年度(以下「平成五年五月期分」という。)の各法人税について、確定申告の際、土地の譲渡等に係る経費の実績値を記載しなかったところ、被告が右経費額を、租税特別措置法施行令三八条の四第六項の規定により概算法(直接又は間接に要した経費額について、譲渡土地の保有期間を基礎として計算した帳簿価格の累計額に、負債の利子として六パーセントをそれぞれ乗じて計算した金額の合計とする。)によって、算出し、右各事業年度について更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、右各処分を「本件各更正処分」、「本件各賦課決定処分」といい、両者をまとめて「本件各課税処分」という。)を行ったので、原告が、右経費額の算出方法を租税特別措置法施行令に委任した租税特別措置法六三条の三第二項二号の規定は白紙委任であるから、租税法律主義を定める憲法八四条(及び三〇条)に、また、概算法を原則とする租税特別措置法施行令三八条の四第六項の規定は、国民の財産権を保証する憲法二九条にそれぞれ違反し、さらに、従前、船橋税務署は、確定申告期限後でも実額配賦法により経費額を計算した超短期土地所有に係る譲渡利益金額に対する税額の計算に関する明細書(以下「明細書」という。)を受理し、それに基づいて法人税を課していたのに、平成四年五月期分及び同五年五月期分の各確定申告では、原告が申告期限後に提出した明細書を受理せずに、本件各課税処分をしたもので、本件各課税処分は課税権を濫用したものである旨主張し、本件各課税処分の一部又は全部の取消を求めた事案である。
なお、本件各法人税額の算出に当たっては、平成四年法律一四号による改正前の租税特別措置法(以下「旧措置法」という。)及び改正後の租税特別措置法(以下「新措置法」という。)並びに平成三年政令八八号による改正前の租税特別措置法施行令(以下「旧措置法施行令」という。)及び改正後の租税特別措置法施行令(以下「新措置法施行令」という。)がそれぞれ適用されているが、以下、単に「措置法」と記載するときは旧措置法及び新措置法を、「措置法施行令」と記載するときは新措置法施行令と旧措置法施行令を併せて示すものとする。
一 本件各課税処分の経緯(この事実は当事者間に争いがない。)
1 原告は、平成四年五月期及び平成五年五月期分の各事業年度分の法人税について、別表一、二の各確定申告欄記載のとおり確定申告をした。
2 被告は、原告に対し、平成七年六月三〇日、右各事業年度の法人税について、別表一、二の各更正・賦課決定欄記載のとおり、それぞれ更正処分及び賦課決定処分をした。
3 原告は、被告に対し、平成七年八月二五日、本件各更正処分について、別表一、二の異議申立て欄記載のとおり、それぞれ異議申立てをした。
4 被告は、平成七年一一月二九日、右各異議申立てに対し、それぞれ別表一、二の異議決定欄記載のとおり各異議決定をした。
5 原告は、国税不服審判所長に対し、平成七年一二月八日、右各意義決定について審査請求をしたところ、平成八年一〇月三一日付けでいずれも棄却するとの裁決がなされ、裁決書は同月七日に原告に送達された。
二 本件各更正処分の根拠(平成七年一一月二九日付け異議決定で一部取り消された後のもの)についての被告の主張(当事者間に争いがないもの、原告が明らかに争わないものについては、その旨記載した。)
1 平成四年五月期
(一) 所得金額 欠損金額一億四六九七万八九五六円
右金額は、原告の平成四年五月期の修正申告書に記載された所得金額と同額である(右金額は当事者間に争いがない。)
(二) 課税土地譲渡利益金額 二億三三五八万三三四〇円
右金額は、次の(1)の金額から(2)ないし(4)の金額の合計額を差し引いて算出したもので、その計算内訳は別紙1のとおりである。
(1) 土地の譲渡等による収益の額 一七億二八四一万六九二五円
右金額は、原告が平成四年五月期において譲渡した土地一五物件の譲渡による収益の額の合計額である(右金額につき、原告は明らかに争わない。)
(2) 土地の譲渡等に対応する原価の額 一三億四六八九万三一三九円
(右金額につき、原告は明らかに争わない。)
(3) 法定の負債利子 八八七六万四二六八円
(4) 法定の販売費及び一般管理費 五九一七万六一七八円
右(3)及び(4)の金額は、別紙1の区分1ないし5の土地と区分6ないし15の土地に、旧措置法施行令三八条の五第四項(同規定が準用する同令三八条の四第六項ないし八項のうち、六項及び七項)の規定及び新措置法施行令三八条の六第四項(同規定が準用する同令三八条の四第六項ないし八項のうち、六項及び七項)の規定を別紙3の1、2のとおりそれぞれ適用して算出した負債利子、販売費及び一般管理費の合計金額である。
なお、各土地の取得日及び譲渡日については当事者間に争いがなく、各土地の期末又は譲渡直前の帳簿価格については、原告は明らかに争わない。
(三) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一億七〇〇八万九二五〇円
旧措置法六三条の二第一項の特別税率の適用を受ける別紙1の区分1ないし5の土地の超短期所有土地の譲渡利益金額は〇円(欠損金額一九五二万七二三〇円)であり、新措置法六三条の二第一項の特別税率適用を受ける超短期所有土地の譲渡利益金額は二億五三一一万〇五七〇円であるので一〇〇〇円未満を切捨てた二億五三一一万円に法定の税率(内金八〇〇万円については五八パーセント、内金二億四五一一万円については六七・五パーセント)を乗じて得られる一億七〇〇八万九二五〇円が、平成四年五月期の課税土地譲渡利益金額に対する金額となる。
(四) 法人税額計 一億七〇〇八万九二五〇円
右金額は、右(三)の土地譲渡利益金額に対する税額と同一である。
(五) 法人税額から控除される所得税額 二〇五万三一四〇円
右金額は、原告の平成四年五月期の修正申告書に記載された法人税から控除される所得税額と同額である(右金額は当事者間に争いがない。)。
(六) 差引法人税額 一億六八〇三万六一〇〇円
右金額は、右(四)の金額から右(五)の金額を差し引いた金額である(国税通則法一一九条により百円未満切り捨て)。
(七) 翌期へ繰越す欠損金額 四億一二三三万八七〇六円
右金額は、原告の平成三年五月期の青色欠損金額一二二四万九一八〇円、平成四年五月期の青色欠損金額一億四六九七万八九五六円及び平成四年五月期の超短期所有に係る土地の譲渡等に係るみなし欠損金額二億五三一一万〇五七〇円の合計金額である。
2 平成五年五月期
(一) 所得金額 欠損金額一億一九六一万〇六九五円
右金額は、原告の平成四年五月期の修正申告書に記載された所得金額と同額である(右金額は当事者間に争いがない。)。
(二) 課税土地譲渡利益金額 六七万八四六七円
右金額は、次の(1)の金額から(2)ないし(4)の金額の合計額を差し引いて算出したもので、その計算内訳は別紙2のとおりである。
(1) 土地の譲渡等による収益の額 二億五八五九万九九四一円
右金額は、原告が平成五年五月期において譲渡した、土地六物件の譲渡による収益の額の合計である(右金額につき、原告は明らかに争わない。)。
(2) 土地の譲渡等に対応する原価の額 二億一八九〇万三九一八円
(右金額につき、原告は明らかに争わない)。
(3) 法定の負債利子 二三四一万〇五三四円
(4) 法定の販売費及び一般管理費 一五六〇万七〇二二円
右(3)及び(4)の金額は、別紙2の区分16の土地と区分17ないし21の土地に新措置法施行令三八条の五第四項(同規定が準用する同令三八条の四第六項ないし八項のうち、六項及び七項)の規定と同令三八条の六第四項(同規定が準用する同令三八条の四第六項ないし八項のうち、六項及び七項)の規定を別紙4のとおりそれぞれ適用して算出した負債利子、販売費及び一般管理費の合計金額である。
なお、各土地の取得日及び譲渡日については当事者間に争いがなく、各土地の期末又は譲渡直前の帳簿価格については、原告は明らかに争わない。
(三) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一三〇万七三二〇円
新措置法六三条一項の特別税率の適用を受ける別紙2の区分16の土地の短期所有土地の譲渡利益金額は〇円(欠損金額一五七万六四九七円)であり、同法六三条の二第一項の特別税率の適用を受ける別紙2の区分17ないし21の超短期所有土地の譲渡利益金額は二二五万四九六四円であるので、一〇〇〇円未満を切捨てた二二五万四〇〇〇円に法定の税率(五八パーセント)を乗じた金額一三〇万七三二〇円が、右課税土地譲渡利益金額に対する税額である。
(四) 法人税額計 一三〇万七三二〇円
右金額は、右(三)の土地譲渡利益金額に対する税額と同一である。
(五) 法人税額から控除される所得税額 六八万二九九〇円
右金額は、原告の平成五年五月期の修正申告書に記載された法人税から控除される所得税額と同額である(右金額は当事者間に争いがない。)。
(六) 差引法人税額 六二万四三〇〇円
右金額は、前記(四)の金額から前記(五)の金額を差し引いた金額である(国税通則法一一九条により百円未満切捨て。)。
(七) 翌期へ繰越す欠損金額 五億三四二〇万四三六五円
右金額は、前記第二の二1(七)の翌期へ繰越す欠損金額に、平成五年五月期の青色欠損金額一億一九六一万〇六九五円及び平成五年五月期の超短期所有に係る土地の譲渡等に係るみなし欠損金額二二五万四〇六四円を加算した金額である。
三 本件各賦課決定処分の根拠(平成七年一一月二九日付け異議決定で一部取り消された後のもの)についての被告の主張
被告は、本件各更正処分により原告が納付すべき法人税額を基礎として、国税通則法六五条一項、二項の規定により過少申告加算税を算出したもので、その額は、別表一、二の各異議決定欄記載のとおりである。
四 争点
1 措置法六三条の三第二項二号の規定は憲法八四条に違反するか否か。
2 超短期所有土地譲渡利益金額の算出に当たり、収益の額から控除すべき経費額(負債利子額、販売費及び一般管理費)の計算について、概算法を原則とする措置法施行令三八条の四第六項の規定は、憲法二九条に違反するか否か。
3 課税権の濫用の有無。
五 争点に対する当事者の主張
1 争点1について
(原告の主張)
(一) 措置法六三条の三第二項二号は、超短期所有土地の譲渡利益金額は、政令の規定で計算した収益金額から当該収益に係る原価額及び当該超短期所有土地の譲渡等のために直接、間接に要した経費額として政令の規定で計算した金額を控除した金額であると規定し、右経費額の計算方法を政令の規定に委ね、措置法自体では概算法を原則とするのか、実額配賦法を原則とするのか明記していない。
そして、措置法施行令三八条の四第六項は概算法を原則とし、実額配賦法は同条の四第八項で例外であると規定しており、しかも法人税申告書に記載した場合に限って実額配賦法を採用し、修正申告を認めていない。
右のとおり、措置法六三条の三第二項二号で経費額の計算方法を租税特別措置法施行令に白紙委任した課税方法は、課税物件の範囲、税率、課税方法等の課税要件は法律の定めるところによるべきとする租税法律主義を定めている憲法三〇条、八四条に違反する。
(二) また、内閣は政令を制定する権限を付与されているが、政令で国民の権利を制限する規定を設けてはならないのであるから(内閣法一一条)、政令は、課税要件の基本的事項を規定した法律を実行あらしめるため、細目的、技術的事項等を規定し得るにすぎず、政令に概括的な白紙委任をすることは違憲、違法であるところ、本件で経費額の計算方法につき概算法を原則とした措置法施行令三八条の四第六項の規定は、まさに国民の財産権を侵害するおそれがあるのであって、右事項につき措置法施行令に概括的な白紙委任をした措置法六三の三第二項二号の規定は、違法無効である。
(被告の主張)
(一) 措置法六三条の二第二項二号は、「当該収益にかかる原価の額及び当該・・土地の譲渡等のために直接または間接に要した経費の額として政令で定めるところにより計算した金額」と規定し、このような計算の細目ないし技術的事項について、具体的かつ個別的に委任事項を特定して政令に委任しているのであるから、白紙委任をしたものではない。
したがって、同条の規定が租税法律主義を定めている憲法三〇条、八四条に違反しない。
(二) 措置法施行令の規定が措置法六三条の二第二項等の委任に基づくものであることは、右(一)で述べたとおりであり、また、内閣法ないし国家行政組織法が政令の規定を設けるに当たり法律の委任を要件としているのは、「義務を課し、または権利を制限する規定」(内閣法一一条)ないし、「罰則を設け、または義務を課し、もしくは国民の権利を制限する規定」(国家行政組織法一二条四項)を設ける場合についてであるところ、措置法六三条の二第二項二号に規定する経費額の計算方法は、計算の細目ないし技術的事項を定めるものに過ぎず、「罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する」規定とはいえないから、右各法で定める法律の委任を要件とする事項に該当しないというべきである。
よって、措置法六三条二第二項二号は租税法律主義に反しない。
2 争点2について
(原告の主張)
(一) 国民は納税の義務を負うが、それは所得あるいは譲渡利益の実績値に対する課税でなければならない。
したがって、実際の収入以上の金額に対し課税してはならないのであって、土地譲渡利益金額算出に当たり収益から控除すべき経費額も原則として実額配賦法とすべきであり、概算法は実額課税の原則の例外措置として採用しなければならない。
しかし、措置法施行令三八条の四第六項は、概算法を原則としており、これは実額課税の原則に反するもので、その結果、実額以上の土地譲渡利益に対して課税することとなる。
したがって、右規定は、個人の財産権を保障する憲法二九条に違反する。
(二) また、概算法を原則とすることは、税金申告日まで実績値による経費額の計算が間に合わないとか、経理額の計算が間に合わないとか、経理担当者が明細書の添付を失念したとか、その他トラブルで遅れて提出したとか、税務署員がその受付を拒否したとかの事情のある納税者にとって著しく不利となるものである。
(三) そして、実額配賦法を原則とし、概算法を例外として規定したとしても、納税者は、いずれかを選択できるのであるから、実額配賦法による計算が過重負担と判断すれば実績値よりも多額の税金を覚悟して概算法による申告をすれば良いだけのことである。
(四) よって、措置法施行令三八条の四第六項の規定は憲法二九条に違反するものであり、措置法施行令の右規定に基づく本件各更正処分及び賦課決定処分はいずれも無効である。
(被告の主張)
(一) 土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費額には、当該譲渡等をした土地の保有のために要した負債の利子の額並びに当該土地の譲渡等のために要した販売費及び一般管理費の額が含まれるところ、これらの経費額を実績値で計算するためには、期間費用として損金の額に算入されているこれらの経費を過去にさかのぼって拾い出し、かつ、これを譲渡した土地に適切に配賦する必要があるが、このような計算は極めて難しく、また煩瑣である。
(二) 負債利子は、当該譲渡にかかる土地の保有のために要した負債の利子であるから、これを実績値によって計算するためには、当該法人が支払った利子のうち特定の日における当該法人の総負債額に対応する金額をまず計算し、これを当日の当該譲渡に係る土地の帳簿価格と当日の当該法人の総資産の帳簿価格との比率を乗じることによって当該土地に係る当日の負債利子の額を計算し、このような計算を、当該譲渡に係る土地の取得の日から譲渡の日までの全保有期間について日々行い、その累計額を算出しなければならないのである。
(三) また、当該土地の譲渡等のために要した販売費及び一般管理費の額は、当該土地の保有期間中に法人が支出した費用を<1>個々の土地の譲渡等に直接要した費用、<2>土地の譲渡等に係る部門で発生した費用で土地の譲渡等に共通的に要した費用、<3>法人の各部門に共通的に要した費用及び<4>土地の譲渡等に係る部門以外の部門のみに要した費用に区分した上で、<1>の費用はその全額を当該個々の土地に直接配賦し、<2>及び<3>の費用は、個々の費用ごとにそれぞれの性質、態様に応じて合理的な配賦基準を定めて当該土地の譲渡等に係る部分を算出して当該土地に配賦し、<4>の費用は当該土地の譲渡等とは無関係の費用として配賦対象から除外する等の計算が必要となる。この場合、<3>の各部門に共通的に要した費用については、まず当該費用の額のうち土地の譲渡等に係る部門に対応する部分の金額を合理的な基準により当該部門に配賦し、次に当該対応する部分の金額を<2>の土地の譲渡等に共通的に要した費用の額として合理的な配賦基準により個々の土地に配分することになる。
また、費用の配賦のために使用する合理的な配賦基準は、当該法人の事業の実態等に応じて、収入金額の割合、使用人の数又は従事日数の割合、資産の帳簿価格又は面積の割合等、個々の費用ごとに、その性質、態様等に応じた最も合理的な割合によらなければならない。そして、これらの割合は、事業年度により変動するものであることから、各事業年度毎に計算し直すこととなり、しかも、複数の事業年度にわたって保有していた土地に掛かる費用の配賦に当たっては、少なくとも事業年度毎に配賦基準を求めて配分額を計算し、これを積み上げて当該土地の譲渡等のために要した費用の額を算出する必要がある。このような実額配賦を行うための計算は複数の事業を行う法人や多数の土地を保有する法人にとっては極めて難しく、また煩瑣である。
(四) 措置法施行令は、右のような法人の事務負担が過重にならないように、土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費額の計算方法について原則として簡便な概算法によって算定することとし、法人が合理的な基準により計算した実績値により法人税申告書に記載した場合には、実績値による、いわゆる実額配賦法によることも認めているのであり、法人の選択により実額配賦法も認めているのであるから、その趣旨にかんがみれば合理的な措置といえる。
(五) また、法人税確定申告書の提出期限は各事業年度終了の日から二か月間であり法人は、この提出期限までに確定申告書を提出する義務があるのであって、当該法人において実額配賦の計算に時間を要した等の事由によって、明細書の作成・提出を期限内にしなかったことにより、期限内に確定申告書及び明細書を提出した法人に比し不利な結果が生ずることがあるとしてもこれをもって不合理な制度ということにはならない。
原告が例示した事由により、明細書の作成が確定申告書の提出期限までに作成できない場合には、土地重課(土地の譲渡等がある場合の特別税率制度)に関する事項を記載した確定申告書の作成もできないのであり、この場合には期限後に申告書を提出することになるが、措置法施行令三八条の四第八項に規定する法人税申告書には、期限後申込書も含まれるので、実額配賦法の採用もできる。
(六) 以上のことからすれば、概算法を原則として定めた措置法施行令三八条の四第六項の規定は合理的であって、憲法二九条に違反するものではない。
3 争点3について
(原告の主張)
(一) 原告は、昭和五三年以降、毎年法人税の確定申告期限後一週間位してから、明細書を提出していたが、いずれも船橋税務署では受理されていた。
そして、平成四年五月期、同五年五月期についても、確定申告期限後一週間以内に明細書を船橋税務署に持参したが、受理されなかった。
(二) 原告は、右のような常態化した提出手続どおり、本件においても明細書を持参したのに、被告はこれを受理せず一方的に概算法の規定に則って本件各課税処分をしたのであるから、本件各課税処分は課税権を濫用してなしたものといわなければならず、いずれも無効である。
(被告の主張)
(一) 原告が、昭和五三年以降、船橋税務署に対し、法人税の確定申告期限後一週間位してから明細書を提出いていたか否かは、明細書が収受印を押印する書類ではないことから定かではないが、少なくとも被告が保存している昭和六二年六月一日から同六三年五月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年五月期」という。)ないし平成五年五月期については、確定申告書の提出時又はその提出後に明細書が提出された事実はない。
すなわち、原告が提出したと主張する明細書は、土地の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する法人税額の計算書として作成するもので、これを作成して提出する場合には、当該事業年度の確定申告書の「課税土地譲渡利益金額」欄及び「同上に対する税額」欄に、明細書の金額を合計した土地の譲渡利益金額及びこれに対する法人税額を記載することになる。
ところが、原告が提出した昭和六三年五月期ないし平成五年五月期の各法人税の確定申告書の右各欄には何も記載されていないのであって、右各欄の記載がないにもかかわらず、原告が明細書を提出したとすれば、全く無意味な文書を提出したことになる。この点を勘案すれば、原告の主張は事実に基づかない虚言であるといわざるをえず、原告のいう常態化した提出手続などはない。
また、原告だけを優遇した手続など、公平な課税の見地からあり得ないことである。
(二) 原告は、平成四年五月期及び平成五年五月期についても各確定申告期限後の一週間以内に明細書を船橋税務署に持参したが、受理されなかった旨主張するが、明細書が確定申告期限に完成していないのであれば、右(一)で述べたとおり、確定申告書の「課税土地譲渡利益金額」欄及び「同上に対する税額」欄の記載もできないのであるから、納付すべき法人税額を算出することができないこととなり、確定申告書だけ申告期限内に完成して提出したという主張は矛盾する。
仮に、原告が、「課税土地譲渡金額」欄及び「同上に対する税額」欄の記載のないままで納付すべき法人税額を算出し確定申告書を提出した上、後日、被告に対して明細書の提出を申し出たとすれば、少なくとも平成四年五月期については課税土地譲渡利益金額があり、納付すべき法人税額が発生するのであるから、明細書の提出に併せて確定申告の内容の修正措置(申告期限内であれば確定申告書の再提出、期限後であれば修正申告書の提出)を構ずべきところ、原告はそのような措置を講じたことを何ら主張していないし、そのような事実もない。
さらに、納税者等から税務署に書類提出の申し出があった場合には、その書類が期限内の提出であるか否かの判断をせずに収受しているのが実態であるから、明細書が確定申告期限後に提出されたということを理由にその受理を拒絶したというようなこともありえない。
第三裁判所の判断
一 争点1について
1(一) 原告は、経費額の計算方法について政令に委任した措置法六三条の三第二項二号の規定は、白紙委任であって租税法律主義に違反する旨、また、右規定を受けた措置法施行令は、適法な委任がないにもかかわらず、財産権を侵害する規定をしているとして内閣法一一条に違反する旨主張する。
しかしながら、本件で、措置法六三条の三第二項二号が政令に委任している事項は、超短期土地所有に係る土地譲渡利益金額算出の為の収益金額、経費額等の計算方法であって、政令の規定により新たに課税要件、課税手続を加えるものではなく、収益金額、経費額等の計算方法という細目的事項について個別的、具体的に委任しているに過ぎないのであるから、租税法律主義に反するものと認めることはできない。
(二) また、原告は、経費額の計算に関し、措置法では概算法と実額配賦法のいずれを原則とするかを規定せず、措置法施行令において規定していることをもって、租税法律主義に反する旨主張するが、委任にある程度の裁量を伴うことは、その本質上当然のことであって、法が個別的、具体的事項に関し、政令に委任した場合には、その範囲内で内閣の裁量により政令を規定し得べきものと解するのが相当である。
本件では、前述のとおり、経費額の計算方法という個別的事項を政令に委任しているのであるから、内閣はその裁量で概算法あるいは実額配賦法のいずれかを原則とすると規定できるのであって、措置法自体で経費額の計算方法の原則を規定しないことをもって租税法律主義に反するものとはいえない。
よって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
2 また、内閣法一一条の規定は、国会が唯一の立法機関であることから(憲法四一条)、政令で国民に義務を課し、権利を制限する規定を設ける場合は法律の委任を要することとしたものであるが、措置法六三条の三第二項自体が、収益額、経費額等の計算方法について政令に委任すると個別的具体的に規定しているのであるから、措置法六三条の三第二項の規定が内閣法一一条に違反するものでないことは明らかである。
よって、この点についても原告の主張は採用することができない。
二 争点2について
1 土地譲渡利益の計算上控除することのできる経費額の計算方法について、措置法施行令三八条の四第六項は、いわゆる概算法によることを原則とするものと定め、他方、同条の四第八項は、法人が経費額のうち当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に計算して法人税申告書に記載した場合には、例外として、実額配賦法によることができる旨定めている。
右各規定の趣旨は、土地の譲渡等のために直接又は間接に要した額として譲渡に係る土地等の保有のために要した負債利子の額並びに土地の譲渡等のために要した販売費及び一般管理費の額を計算するためには、期間費用として各事業年度の所得の計算上損金に算入されているこれらの費用を過去にさかのぼって拾い出し、個々の譲渡に係る土地等に適切に配付し、土地等の取得から譲渡に至る全期間にわたって集計する作業を要するものであり、実際上はかなり難しいものであるので、実績値に基づいて法人税を申請するとした際の納税者の負担加重を考慮し、原則として概算法によって算定することとし、法人が合理的な配付基準により実績値を計算した場合には実績値の選択を認め、その場合には法人税申告書に実績値を記載して申告することとしているものである。
したがって、かかる趣旨からすると、経費額の計算方法について概算法を採用することは、租税制度として合理的であるといえる。
2 原告は、概算法を原則とし、実額配賦法を例外として規定する措置法施行令の規定を問題にするが、納税者である法人はどちらの計算方法を採用するかは任意に選択できるのであるから、概算法を原則として規定すること自体の弊害は特段見当たらない。
原告が主張するところの弊害(争点2についての原告の主張(二))は、確定申告にあたり、納税者が実績値の計算をすることができなかった場合の問題に過ぎず、概算法を原則として規定することとの関連性はない。
3 また、経費額の計算について、実額配賦法によって計算した場合より概算法で計算した場合の方が、控除すべき経費額が小さくなり、結果として法人税額が多額になる場合があるとしても、経費額の計算につき納税者の負担軽減をはかるという概算方の趣旨からすれば、必ずしも不合理とはいえず、また、概算法によるか、実額配賦法によるかは任意に選択できるのであるから、概算法を原則として規定したことをもって、憲法二九条に違反するものとはいえない。
4 よって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
三 争点3について
原告は、昭和五三年以降、法人税の確定申告期限後一週間位してから明細書を提出していたが、船橋税務署は、右明細書を受理し、明細書に基づく実額配布法により経費額を算出するという運用をなしていたにもかかわらず、平成四年五月期及び同五年五月期の確定申告にあたっては、申告期限の一週間後に提出した明細書を受理しなかったとして、本件各課税処分は課税権を濫してなしたものであっていずれも無効であると主張する。
しかしながら、証拠(甲三、四、弁論の全趣旨)によれば、原告が平成四年五月期及び同五年五月期の明細書を作成していたこと、右明細書が確定申告期限までに船橋税務署に提出されなかったことはいずれも認められるものの、証拠(乙一ないし四、六、弁論の全趣旨)によれば、原告の昭和六三年五月期から平成三年五月期までの法人税の確定申告に際しては、「課税土地譲渡利益金額」欄及び「同上に対する税額」欄に金額の記載がない確定申告書を提出していることが認められるところ、課税土地譲渡利益金額が〇円である場合に明細書を提出する必要はないこと、また、右利益金額があり、納付すべき法人税があれば確定申告の内容の修正措置を構ずべきところ、原告がそのような措置を講じたことをうかがわせる証拠はなく、更に、証拠(乙六)によれば、船橋税務署においては、納税者から書類提出の申出がある場合には全て受領していることが認められることなどからすると、昭和五三年以降、原告が確定申告期限後に明細書を提出し、それを船橋税務署が受理した上、実額配賦法による経費額の計算をして法人税額を算出していたとする長野博子の陳述書の記述(甲一四)、証人長野博子の証言及び原告本人尋問の結果は、いずれもにわかに信用することはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
よって、原告の課税権濫用の主張は、その前提となる事実が認められないから、その余の点について検討を加えるまでもなく、採用することができない。
四 結論
以上によれば、被告が、原告の土地譲渡収益に係る経費額の算出について概算法を用いて算出したことは正当であり、前記第二の二で認定したとおり、原告の平成四年五月期の法人税額は一億六八〇三万六一〇〇円に、同五年五月期の法人税額は六二万四三〇〇円となるから、右金額の範囲内でなされた本件更正処分(但し、平成五年五月期については、平成七年一一月二九日付異議決定で一部取り消された後のもの)はいずれも適法であり、したがって、これらの金額を前提としてなされた本件各賦課決定処分もまた適法である。
よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川島貴志郎 裁判官 菅原崇 裁判官 齋藤巌)
別紙一
平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度の本件更正処分等の経緯
<省略>
別紙二
平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度の本件更正処分等の経緯
<省略>
別表1
平成4年5月期に係る土地の譲渡等
<省略>
別表1
平成5年5月期に係る土地の譲渡等
<省略>
別紙3の1 (別紙1の区分1ないし5の法定の負債利子、法定の販売費及び一般管理費の計算内訳)
<省略>
別紙3の2 (別紙1の区分6ないし15の法定の負債利子、法定の販売費及び一般管理費の計算内訳)
<省略>
<省略>
別紙4 (別紙2の法定の負債利子、法定の販売費及び一般管理費の計算内訳)
<省略>
<省略>